佐々木 俊尚
講談社 (2007/08/07)
売り上げランキング: 371
戦後の要請でできあがった日本、その後バブル崩壊で変わりつつある今の日本、今この国に生きる人は一読の価値あり。
僕らの世代でも、大企業で働く人、個人志向の延長でベンチャーで働く人、あるいは個人で仕事をする人(もしくは起業する人)がいて、それぞれの道を選択するのは、今まで価値観の違いだと思っていた。本書を読んで、無意識的にしろ、別の要因もあることを実感した。(ちょっと感覚的だけど読むとわかる)
僕が、言葉でうまく説明できないことを(本書の言葉を借りれば『肌で感じて』いること)を、本書で、背景情報を得ながら読むことで納得できた部分が多い。戦後の高度経済成長からバブルに至る時期が年功序列を「可能」にしていたということ。その大企業の家族主義が、戦後の喪失感を補って日本の経済の発展の大きな要因になったことなどは勉強になった。それから崩壊後に、成長曲線の鈍化が年功序列を「不可能」にした一因だと言うことも今まで持っていなかった認識だった。単に欧米式の効率化を追随した訳じゃなく、単にできなくなったんだと。
ちょうど香港へ向かう飛行機で映画版「憑神」を見たが、長く平和ボケした徳川の世から、明治維新で発想、マインドセットの転換を余儀なくされた時期と現代が重なって思えた。現代とは本書で語られている世界のことで、戦後家族主義の「安心だが隷従」な頃から「われわれ」の喪失した時代へと移行する「現代」だ。ただし、この変革はネットによってもたらされたものであるのと同時に、「ネット上において」顕著なのだということを認識する必要がある。まさか実世界(Face-to-Face)で当てはめようとしてはいけない。そんなことをするときっと自分が損をする。
この書籍に関しては、共感できる部分も多数あり、また、自分がうっすらと感じていた「違和感」の解明にも挑んでいるので、かなり読み応えがあった。と同時に一気に読めてしまった。
特に今の仕事をするようになってからは、メディアのインタビューを受けることが多いので、本書の前半、日本のメディアの成り立ちと今までの時代の要請、それからインターネット(個人メディア)登場後の、とてつもなく大きな課題などが、わかりやすく、勉強になった。戦後、メディアが国民の代弁者のように「われわれ」という人称で書くことへの違和感の理由も、これまでの歴史を考えれば理解できる。メディアが追いついていない。特に新聞は、「万人向けのもの」から細分化された現代ではともすると「誰のためのものでもない」読まれないメディアになるおそれがある。その前に大きく変革を遂げなければシュリンクは余儀ないとさえ思った。
この手の本は海外から輸入されて翻訳されることが多い印象だが、本書は、日本人ならではの視点、社会観、歴史観で、日本のメディア、ジャーナリズムを述べていて、翻訳本にあるような「わかるけど完全には僕らには当てはまらないな」というところがない。特に僕のように外資で働きながら、本書を読むと、日本の特質が裏付けられたようで日頃の謎が解けた部分もある。
団塊の世代の方々、権威メディア関係者の方々だけではなく、若い人の中でたとえば2ちゃんねるを闇雲に怖がっている人、ブログなど個人の情報発信に興味のある人は、必ず読んでいただきたい。IT(日本特有の受注ITはちょっと違うかもしれないけど)に携わっている人は特に読む価値あります。
実を言うと、インターネットを積極的に使わない人にも影響してくることなので、多くの人に読んでもらいたいと思った。この本を元に様々な思考ができそうだ。
繰り返すが、これはネット上での話。現実の社会組織などで、この発想の転換を相手や環境に求めると、きっと孤立し出世もできなければお金持ちにもなれないでしょう。面と向かって地でいくと、友達もいなくなるかもしれません。笑
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