角川書店 (2007/03)
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リクルート創業者である江副浩正さんによる、自叙伝的リクルートの歴史本。1章~3章までは、企業家精神、リクルートの企業風土について。4章以降はリクルートの歴史に沿って、著者の企業マネージメントの格闘ぶりが記述されている。
仕事でリクルートの方々、リクルートOBの方々と会う機会が多いのですが、理解が深まったかも。起業家としての著者に非常に興味があったのですが、本書を通じて、著者だけではなく、他の(江副さんが参考とされた)起業家の話も多く取り上げられており、僕の本書に求めた目的の一つは大きく達せられました。
立ち上げ初期、森ビル1号ビルの屋上のプレハブで個人事業としてスタートした時点では、情報誌でこのままやっていこうと思っていなかった、という言葉が印象に残ります。また起業の同期も、学生の時にアルバイトしていた大学新聞の広告販売の収入が多くて、その収入に見合う就職先が無かったというのもおもしろい。僕もまえから、そんなものだろうと思っているので、共感を覚えます。
僕自身が起業や、ベンチャー、マネージメントに興味があるためリクルートの理念や、マネージメントチームの会議内容および決定過程(T会議)などは実例としてとても参考になります。著者ご本人は「話し下手」と自認されており、それを補うために理念作りに力を入れたそうです。
ついこの間観たNHK「そのとき歴史が動いた」の武田信玄が最強軍団を作り上げた課程が少しダブりました。
「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」
すべての社員がこれを実践できる風土ってすごいですね。
その他、感じたのは著者は実に気配りの人で(=相手の気配りも理解できる)、恩義に対しては徹底してお礼をしていく人だということです。全編を通して登場する様々な外部の人との関わりは、そのときだけではなく、長年に渡って続いていることがわかります。しかも非常にハイレベルのその人にしかできないような「助けあい」の関係になっているところが著者の人間性によるものなのではないかと思ったりします。結局、要は、「ちゃんとした人」じゃないと本当の意味での成功はない、ということかな。どんな世界でも。当時としては異例の若さで、超優良企業を作り上げたため、接する財界、政界との年齢のギャップで苦労されたことも、このようなある意味「処世術」的要素に磨きがかかった原因かもしれません。
忘れましたが、ずーっと昔、どこかの雑誌に江副さんのことについて、『この天才がもっと早く釈放されていれば、日本の情報産業は、今より数段世界に対しても優位に立っていただろう』というコメントは、確かにそうだったかもしれないと思います。技術やビジネスモデルだけではなく、著者の各方面への信頼度および人的コネクションなどが総合されて、その後どうなっていったか。日本でいち早く「モノ以外」で、需要と供給を深く考えてこられた著者が、このインターネットによる情報産業および広告産業激変の時代に第一線でリードされていたら、どうだったのか...もちろん、事件後、経営者が変わってもネットを含めすばらしい発展を遂げているリクルートですが、江副バージョンも見てみたかった気がします。
ご本人がいなくても、いるかのごとく進んでいくからこそ"DNA"である、ということが本書のテーマなのですけどね。やはり、アダムの采配を見てみたかったですね。
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